創業者の歩み

幼少年期こそ病弱で、「体が虚弱なため(小学校は)欠席がちで、ロクに運動もできなかった」と後に振り返っている正二郎。そんな正二郎が87歳という当時としても長寿を保つことができた秘訣は、常に食事と運動に細心の注意を払っていたからだといわれています。
正二郎は食事について独自の見識があり、質と量とを常に一定に保っていた他、「夜は飽食をしない、脂肪には用心する、不消化物はカスを出すように、水物を飲みすぎると胃液を薄め消化を悪くする」と話すなど、固い意志を持って日常的な摂生を心掛けていました。
1952年の春、63歳のとき、正二郎が理事長を務める久留米大学から、東北大学の近藤正二教授による講演速記が届きました。テーマは、「長寿と食習慣について」というもの。これを読んだ正二郎は、「長年調査研究をしている近藤教授の伝える内容は、日本人の食習慣を改め、健康を増進させるのに非常に有益である、ぜひ国民一般に知らせたい」と考えました。自分自身や家族の健康だけを考えるのではなく、もっと広く、社会全体に役立てることに思いを巡らせたのです。
さっそくこれをパンフレットに複製した正二郎は、どうやって人々の手元に届けるか思案しました。「ブリヂストン美術館には全国から毎日数百人の入場者がある。この人たちに無料で渡せば、毎年10万人ぐらいの人が手にするし、10年続ければ100万人に、もし2人で読んでもらえば約200万人が参考にしてくれる。郵送費いらずで全国に普及させられるのではないか」と、ブリヂストン美術館で配布することにしたのです。
食習慣についての役立つ考え方を多くの人々に広めたいとの思いから始めたこのパンフレットは、貴重な資料として多くの人に喜ばれました。
*本文中は敬称略
参考文献:「私の歩み」(石橋正二郎著)
「石橋正二郎」(小島直記著・ブリヂストンタイヤ(株)刊)