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暗黙知を可視化し、知財を効率的に組み合わせるブリヂストンの知財戦略

ナレッジやノウハウなどの「秘伝のタレ」を可視化し、事業モデルに合わせて効果的に組み合わせることで顧客価値と社会価値の向上に役立てている「ブリヂストンの知財戦略」。
後編では、知財を効果的に組み合わせる「知財ミックス」について伺いました!
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(株)ブリヂストン 知的財産部門長

荒木 充さん

1988年(株)ブリヂストン入社。入社以来約25年間タイヤの設計や開発企画に携わる。品質保証本部長を経て2016年1月より現職。

JAL様との協業から見る「知財ミックス」戦略

Arrow編集部 可視化された知財を組み合わせた実例を教えてください。

荒木さん 日本航空(JAL)様とブリヂストンとの協業で、JAL様が持つフライトデータや離着時にかかるタイヤの実摩耗データと、ブリヂストンが持つタイヤ摩耗予測技術を掛け合わせ、航空機タイヤの交換時期を予測する「航空ソリューション」は皆さんもご存じだと思います。この取り組みは、JAL様から頂いたビッグデータに、ブリヂストンが過去から積み重ねてきたナレッジ・ノウハウや独自のアルゴリズムを掛け合わせることで顧客価値に変換しています。航空機用タイヤの摩耗・耐久予測を行うことで、タイヤやホイールの在庫平準化・削減、タイヤ交換業務の効率化によるJAL様のオペレーションの生産性最大化に貢献する取り組みです。
この共創では、大きく5つの知財が活用されています。
①    JALが持つ航空機の運航と、ブリヂストンが持つタイヤの稼働状況に関する2つのビッグデータをクレンジングするナレッジ・ノウハウ
②    データを読み解き、タイヤの情報を入力するナレッジ・ノウハウ
③    タイヤの摩耗や交換時期を予測するアルゴリズム
④    タイヤの品質保証とサービスのノウハウ
⑤    タイヤ交換時期のビジネスモデル

このうち、ブリヂストンが特許を取得しているのは③のアルゴリズムの一部と⑤のビジネスモデルだけです。先程ご説明させていただいたとおり、知財全体像を可視化することで効果的・戦略的に知財を活用することができますが、この2つだけを特許化することで、参入障壁が高くなります。権利化する知財=権利化領域と、見せない知財=秘匿領域を効果的に組み合わせ、他社の追随を許さない環境をつくっています。
こうした知財を効果的に組み合わせて価値に変換するのが「知財ミックス」で、航空ソリューションの他、鉱山用タイヤの耐久予測を行う鉱山ソリューションをはじめ、多くの事業において活用されており、顧客価値向上と競合との差別化に貢献しています。

※不要なデータ(ノイズ)を特定し分析に必要なデータのみを選別すること

タイヤ摩耗予測のイメージ

Arrow編集部 知財をミックスさせるなかで、何を見せて何を見せないかを厳選するのかが鍵になりそうですね。

荒木さん そのとおりです。アルゴリズムの本質的でない表層的な部分や、ビジネスモデルについては特許で権利化し、他社がまねできないようにしています。
一方で、ブリヂストン独自のナレッジ・ノウハウは、特許として公開することなく、見せない知財として、競争力を保っています。例えば、データクレンジングの部分。ビッグデータに必ず含まれるノイズをどういう観点で除去するかは、ブリヂストンが「現物現場」で培ってきた確かな技術と積み重ねてきた豊富な知見によるため、このようなナレッジ・ノウハウは秘匿化することで、他社が参入できないビジネスモデルを確立しています。

「紙おむつ」から見えてくる!? リサイクルのヒント

他社の好事例などを基に、どのように知財を活用するかを考える場として、各事業部門と多いときには毎月開催している「発想会」。
昨年は、異なる業界の好事例研究として「紙おむつ」をテーマに発想会を開催しました。紙おむつは使い捨ての衛生用品ですので、リサイクルが容易ではありませんが、なぜそれが上手くいっているのか。知財の観点からトップ企業の取り組み状況を分析し、タイヤのリサイクルに応用できる部分はないかなど議論しました。普段接することのない業界の知財好事例集に触れることで、自分たちの知財戦略の気づきにつなげることも知財部門ならではの役割です。

日々の業務の工夫から新しい知財が生み出される

Arrow編集部 最後に私たち一人ひとりが知財をどのようなものと捉えて、活用していけばいいのか教えてください。

荒木さん ブリヂストンで働く私たちの周りには、知財はまるで空気のように存在しており、なかでも業務で回しているPDCAのCheckからActionを起こすところで確実に新しい知財が生まれています。時にそれが革新的なイノベーションにつながることもあります。皆さんの日々の業務の工夫は、実は他にはまねできない、かけがえのない価値を生み出しています。皆さんにはそういった意識をもってもらい、この知財は効果的に活用できるぞと思ったときには、知財部門にお声がけいただけるとうれしいですね。

20年に1度の快挙! 石破総理大臣から感謝状授与

今年4月、産業財産権制度への普及・発展への貢献が評価され、内閣総理大臣の石破 茂さんから(株)ブリヂストン 代表執行役 副社長 Global CAO(Chief Administration Officer)・Global CSO(Chief Strategy Officer)の森田 泰博さんに「産業財産権制度普及発展特別功労企業 内閣総理大臣感謝状」が授与されました。
内閣総理大臣が感謝状を授与するのは20年に1度という大変名誉ある賞です。
ブリヂストンの90年以上にわたる知財を大切にする伝統と、事業戦略と連動した「知財ミックス」、知財を草の根型の「現物現場」で理解し、顧客価値・社会価値につなげる取り組みが評価されたものです。

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