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伝説のレーシングドライバー・大久保力さんに聞く 1960年代のモータースポーツとブリヂストン(後編)
前編では、日本での4輪レースの誕生から一気に加速するタイヤ開発のお話について伺いました。後編では、いよいよ大久保力さんがブリヂストンで開発ドライバーをされていたときのレース用・高速で走ることのできる市販タイヤ開発の秘話、これからのモータースポーツにおいてブリヂストンに期待することについて伺っていきます。
レース用・高速で走ることのできる市販タイヤの開発秘話
――ブリヂストンでどのような仕事をされていたのでしょう。
所属はサービス部でしたが、主に小平の技術センターで仕事をしていました。
技術者がタイヤの材質や形状を考え、試作したタイヤをテストドライバーが乗るわけですが、クルマに乗る際に必ず目隠しをさせられていました。一周して戻ってくると、また目隠しをしてクルマから降り、10分くらい休んで、再び目隠しをして次のタイヤを試す。その繰り返しでした。なぜそんなことをするのかと言うと、タイヤのトレッドを見てしまうと先入観が生まれてしまうから。ドライバーの五感を試されている感じがしました。
ある時は、レース用タイヤの開発で、同じ材料、同じ形状でも滑り方やブレーキの制動距離が違うことが課題に。その理由を話し合いで突き詰めていくと、やはりパタンだという結論に落ち着きました。ドライバーの立場からどういうパタンにすれば滑らないタイヤにできるか。開発チームでいろんな形を考えました。中にはラーメンのどんぶりの模様のようなパタンもありましたね。それを一つ一つ手作業で削る技術者の姿を見てすごいなと思いました。
ただ、どんなパタンで試しても性能が変わらず、結局、パタンではなく接地面積とゴム質が要因であるという結論に至り、あれだけ考えたパタンは全部なくなって溝のないスリックタイヤに。「今まで何をやっていたんだろう」と思ったのを覚えています(笑)。
また、ブリヂストンが安全性に徹底的にこだわる姿勢も印象的です。すでにある程度、安全性は確保できたと思っていたので、ある時、課長さんに「今ので十分じゃないですか」と聞きました。その返事は「いや、これじゃだめだ。大久保くん、メルセデス・ベンツが採用してくれるようなタイヤでないとダメなんだ。それが僕らの夢だ」と。世界最高峰の車に採用されることを目指していることを知り、正直感心しました。同時に自分もテストドライバーとして疎かな仕事はできないと身が引き締まりました。
もう一つ、安全性にまつわる話で記憶に残っているのは、低圧タイヤで高速走行してあえてバーストさせる耐久テストです。ところがブリヂストンのタイヤは丈夫でなかなかバーストもしないしホイールからも外れない。そこで課長さんが「そういえばドイツに無理やりパンクさせる装置があるらしい」と言い出して。それは勘弁してくださいと頭を下げました。
所属はサービス部でしたが、主に小平の技術センターで仕事をしていました。
技術者がタイヤの材質や形状を考え、試作したタイヤをテストドライバーが乗るわけですが、クルマに乗る際に必ず目隠しをさせられていました。一周して戻ってくると、また目隠しをしてクルマから降り、10分くらい休んで、再び目隠しをして次のタイヤを試す。その繰り返しでした。なぜそんなことをするのかと言うと、タイヤのトレッドを見てしまうと先入観が生まれてしまうから。ドライバーの五感を試されている感じがしました。
ある時は、レース用タイヤの開発で、同じ材料、同じ形状でも滑り方やブレーキの制動距離が違うことが課題に。その理由を話し合いで突き詰めていくと、やはりパタンだという結論に落ち着きました。ドライバーの立場からどういうパタンにすれば滑らないタイヤにできるか。開発チームでいろんな形を考えました。中にはラーメンのどんぶりの模様のようなパタンもありましたね。それを一つ一つ手作業で削る技術者の姿を見てすごいなと思いました。
ただ、どんなパタンで試しても性能が変わらず、結局、パタンではなく接地面積とゴム質が要因であるという結論に至り、あれだけ考えたパタンは全部なくなって溝のないスリックタイヤに。「今まで何をやっていたんだろう」と思ったのを覚えています(笑)。
また、ブリヂストンが安全性に徹底的にこだわる姿勢も印象的です。すでにある程度、安全性は確保できたと思っていたので、ある時、課長さんに「今ので十分じゃないですか」と聞きました。その返事は「いや、これじゃだめだ。大久保くん、メルセデス・ベンツが採用してくれるようなタイヤでないとダメなんだ。それが僕らの夢だ」と。世界最高峰の車に採用されることを目指していることを知り、正直感心しました。同時に自分もテストドライバーとして疎かな仕事はできないと身が引き締まりました。
もう一つ、安全性にまつわる話で記憶に残っているのは、低圧タイヤで高速走行してあえてバーストさせる耐久テストです。ところがブリヂストンのタイヤは丈夫でなかなかバーストもしないしホイールからも外れない。そこで課長さんが「そういえばドイツに無理やりパンクさせる装置があるらしい」と言い出して。それは勘弁してくださいと頭を下げました。
各メーカーの主力車種が集結
――タイヤのテストにはどのようなクルマを使っていたのですか?
鈴鹿や谷田部など、人の目があるところでは、プリンススカイラインGT、日産フェアレディ、日産ブルーバード、いすゞベレットGT、トヨタセンチュリーなど多様なクルマが用意されていました。ブリヂストンはいろんな自動車メーカーがお客様ですから、一つのクルマでテストしていると色がついていると思われてしまう。乗らなくてもいいから、パドックの周りに全部クルマを並べないといけない。こんな説明を聞いて、タイヤメーカーも気を使って大変だなと思いました。
そんな1台、メルセデス・ベンツ280Sに乗った時の写真です。
鈴鹿や谷田部など、人の目があるところでは、プリンススカイラインGT、日産フェアレディ、日産ブルーバード、いすゞベレットGT、トヨタセンチュリーなど多様なクルマが用意されていました。ブリヂストンはいろんな自動車メーカーがお客様ですから、一つのクルマでテストしていると色がついていると思われてしまう。乗らなくてもいいから、パドックの周りに全部クルマを並べないといけない。こんな説明を聞いて、タイヤメーカーも気を使って大変だなと思いました。
そんな1台、メルセデス・ベンツ280Sに乗った時の写真です。
自動車メーカーに対する等距離外交の姿勢は私にも影響を及ぼすことになります。日産のレースチーム入りの話が決まってしまい、1967年に私はブリヂストンを離れることになりました。その後ブリヂストンは、有力なレースチームにタイヤを供給してレースでタイヤを鍛えていくことになります。
第4回グランプリで優勝
――大久保さんがブリヂストンを離れる同年の第4回グランプリで、ブリヂストンの「RAH」を装着したポルシェ・カレラ6が見事優勝しましたが、優勝できた秘訣はどんなところにあったのでしょうか。
当初、ブリヂストンが優勝を争えるようなタイヤを作り上げる技術があることは知られていなかったと思います。そこで、ブリヂストンの担当が目を付けた有力なレースチームのタキ・レーシングの代表に、「ブリヂストンはよくやっている。ただ、今、試験用で作っているタイヤをタキ・レーシングのカレラ6に装着してもうまくいかないだろう。カレラ6に向いたタイヤの条件をブリヂストンのエンジニアに伝えれば、必ずそれに沿ったタイヤを作ってくれるはずだ」。と助言しました。助言に従った結果が、グランプリ制覇の一因になっていると私は確信しています。
結局、タキ・レーシングは1973年に解散するまで、ブリヂストンのタイヤを使っていました。その間に、ブリヂストンのタイヤの技術は大きく進化したのではないでしょうか。
当初、ブリヂストンが優勝を争えるようなタイヤを作り上げる技術があることは知られていなかったと思います。そこで、ブリヂストンの担当が目を付けた有力なレースチームのタキ・レーシングの代表に、「ブリヂストンはよくやっている。ただ、今、試験用で作っているタイヤをタキ・レーシングのカレラ6に装着してもうまくいかないだろう。カレラ6に向いたタイヤの条件をブリヂストンのエンジニアに伝えれば、必ずそれに沿ったタイヤを作ってくれるはずだ」。と助言しました。助言に従った結果が、グランプリ制覇の一因になっていると私は確信しています。
結局、タキ・レーシングは1973年に解散するまで、ブリヂストンのタイヤを使っていました。その間に、ブリヂストンのタイヤの技術は大きく進化したのではないでしょうか。
未来のモータースポーツとブリヂストン
――今日は黎明期の貴重なお話を伺うことができました。最後に、これからのモータースポーツとブリヂストンに期待する役割についてお聞かせください。
ブリヂストンには、クルマの種類を問わず、自社のタイヤを愛用してくれているお客様のカーライフをサポートする姿勢を更に前面に打ち出してほしいと思います。例えば、PCM(POTENZA Circuit Meeting)やPCC(POTENZA Circuit Challenge)のような、もっともっと裾野を広げて、誰もが楽しめるモータースポーツの体験をどんどん提供してほしいですね。
また、タイヤの性能については、専門的な説明ではなく、タイヤ一つで乗り心地や静かさが違ってくることをもっと強くPRしていくことで、もっとタイヤの大切さを意識してもらう。それが本当のモータリゼーション社会の実現にもつながっていくはずです。
――お話を伺っていて、大久保さんのような一流のテストドライバーがいたからこそ、一流のタイヤを作ることができたのだと実感しました。本日はありがとうございました。
ブリヂストンには、クルマの種類を問わず、自社のタイヤを愛用してくれているお客様のカーライフをサポートする姿勢を更に前面に打ち出してほしいと思います。例えば、PCM(POTENZA Circuit Meeting)やPCC(POTENZA Circuit Challenge)のような、もっともっと裾野を広げて、誰もが楽しめるモータースポーツの体験をどんどん提供してほしいですね。
また、タイヤの性能については、専門的な説明ではなく、タイヤ一つで乗り心地や静かさが違ってくることをもっと強くPRしていくことで、もっとタイヤの大切さを意識してもらう。それが本当のモータリゼーション社会の実現にもつながっていくはずです。
――お話を伺っていて、大久保さんのような一流のテストドライバーがいたからこそ、一流のタイヤを作ることができたのだと実感しました。本日はありがとうございました。
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旧サイトでの6月末時点いいね数:103 コメント数:1
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