ブリヂストンだから、助けられる命がある。災害時に消防隊員の想いに 寄り添うタイヤができるまで。【後編】

一分一秒でも早く完成させるんだ!
2022年10月、ブリヂストンと総務省消防庁管轄の消防大学校消防研究センターは、世界で初めてとなるタイヤを発表しました。それは、パンクして空気が抜けても走行を続けられる救急車・指揮車用の“パンク対応タイヤ”。今では日本各地の救急車両の足元を支え、人々の命を救うために走り回っています。
携わったメンバーは100人以上。より良いタイヤづくり、そして人命救助への使命感と向き合った4年にわたる日々を、それぞれの視点から追いました。
2022年10月、ブリヂストンと総務省消防庁管轄の消防大学校消防研究センターは、世界で初めてとなるタイヤを発表しました。それは、パンクして空気が抜けても走行を続けられる救急車・指揮車用の“パンク対応タイヤ”。今では日本各地の救急車両の足元を支え、人々の命を救うために走り回っています。
携わったメンバーは100人以上。より良いタイヤづくり、そして人命救助への使命感と向き合った4年にわたる日々を、それぞれの視点から追いました。
パンクに“気付けない”という危険性
「パンクしているなんて信じられないですね!」。実証実験中、消防研究センターや消防本部の職員は革新的な性能に驚きの声を上げた。しかしこの言葉は、パンクしたことに気付かずに走行し続けた場合、走行可能距離の50㎞を超え想定外の場所で走行できなくなるかもしれないということの裏返しでもあった。
そこで導入されたのがタイヤ空気圧監視システム「TPMS」。ブリヂストンの販売チャネルや運送会社様向けのデジタルソリューションツールの一つだ。
「なぜ空気圧にそこまで気を遣う必要があるのか?」。消防研究センターの方からは疑問に思う声が寄せられた。そこで堀越さんと木内さんは実証実験に同行し、パンクに気付かずにパンクしたまま50㎞を超えて走行してしまう危険性と空気圧管理の重要性を説いて回った。更に、実証実験を通じてTPMSが送信する電波が、車両が大きい救急車でも安定して電波受信が可能であるか、車載している医療機器などに影響しないことをTPMSの製造メーカー太平洋工業(株)の協力を得て立証し、理解を求めた。
そこで導入されたのがタイヤ空気圧監視システム「TPMS」。ブリヂストンの販売チャネルや運送会社様向けのデジタルソリューションツールの一つだ。
「なぜ空気圧にそこまで気を遣う必要があるのか?」。消防研究センターの方からは疑問に思う声が寄せられた。そこで堀越さんと木内さんは実証実験に同行し、パンクに気付かずにパンクしたまま50㎞を超えて走行してしまう危険性と空気圧管理の重要性を説いて回った。更に、実証実験を通じてTPMSが送信する電波が、車両が大きい救急車でも安定して電波受信が可能であるか、車載している医療機器などに影響しないことをTPMSの製造メーカー太平洋工業(株)の協力を得て立証し、理解を求めた。
木内さんは、「実証実験に同行し、市町村によってタイヤのメンテナンス、管理方法に差があることがわかりました。自前の整備工場を持っている消防本部もあれば、地元のカーショップなどでタイヤ交換をしているところも。管理の質に大きな差があるなかでタイヤの性能を守り続けるためには空気圧管理は絶対に欠かせません。熱意を持ってTPMSの装着に後ろ向きなところでの説得に当たりました」と振り返る。
また、堀越さんはパンク対応タイヤが硬いためリム組・リム解き作業の難易度が高いことと、TPMSを正しく設置する取り付け方法を周知するためのメンテナンスマニュアルを作成し、タイヤ脱着とTPMSセットアップ作業の標準化を図った。
タイヤとTPMS、そしてリム外れしにくい構造の専用ホイールの3つをセットとしたことで、安全にパンク対応タイヤを使用することを可能とした。
また、堀越さんはパンク対応タイヤが硬いためリム組・リム解き作業の難易度が高いことと、TPMSを正しく設置する取り付け方法を周知するためのメンテナンスマニュアルを作成し、タイヤ脱着とTPMSセットアップ作業の標準化を図った。
タイヤとTPMS、そしてリム外れしにくい構造の専用ホイールの3つをセットとしたことで、安全にパンク対応タイヤを使用することを可能とした。
オンラインで量産体制を確立
量産体制は、小ロット・多品種の高性能タイヤの生産に強みを持つ鳥栖工場で立ち上げることに。体制の確立もまた、一筋縄ではいかなかった。
通常、量産体制構築時は設計メンバーが来工し、実際に工程を見ながら設計通りの製造ができるか確認し、機械や規定値の調整を行う。しかし、コロナ禍の影響で来工が叶わず、量産への作り込みはほぼオンラインで行うことに。技術課の溝江さんは、「オンラインでの量産体制構築は初めての取り組みでしたし、わずかな部材の歪みや感覚的な情報を正確に伝え、改善策を練ることはとても難しいものでした」と語る。
パンク対応タイヤのサイド補強ゴムは、これまで作ったことのない厚みと重みだ。そのため乗用車用の成型機では重みで部材が滑り、ベルトコンベアで運べなくなってしまった。更には、特殊ドラムのためドラムに貼り付けた部材を折返すための機械との段差が大きく、部材の折り返し部分に隙間ができてしまったのだ。少しでも空気が入ったものは不良品。溝江さんは技能員と頭を悩ませながら、機械を何カ所も改修し、貼り合わせる方法を見つけ出していった。「折り返し部分の隙間は、貼り付ける際に技能員さんに手で押さえ込んでいただくことで解決できることがわかりました。力加減や押す場所などはまさにカン・コツの世界。約1年がかりで見つけ出すことができました」。
通常、量産体制構築時は設計メンバーが来工し、実際に工程を見ながら設計通りの製造ができるか確認し、機械や規定値の調整を行う。しかし、コロナ禍の影響で来工が叶わず、量産への作り込みはほぼオンラインで行うことに。技術課の溝江さんは、「オンラインでの量産体制構築は初めての取り組みでしたし、わずかな部材の歪みや感覚的な情報を正確に伝え、改善策を練ることはとても難しいものでした」と語る。
パンク対応タイヤのサイド補強ゴムは、これまで作ったことのない厚みと重みだ。そのため乗用車用の成型機では重みで部材が滑り、ベルトコンベアで運べなくなってしまった。更には、特殊ドラムのためドラムに貼り付けた部材を折返すための機械との段差が大きく、部材の折り返し部分に隙間ができてしまったのだ。少しでも空気が入ったものは不良品。溝江さんは技能員と頭を悩ませながら、機械を何カ所も改修し、貼り合わせる方法を見つけ出していった。「折り返し部分の隙間は、貼り付ける際に技能員さんに手で押さえ込んでいただくことで解決できることがわかりました。力加減や押す場所などはまさにカン・コツの世界。約1年がかりで見つけ出すことができました」。
乗用車用であれば1日で数百本生産できるところ、パンク対応タイヤはプロセスの複雑さから70本が限界値。「まさに“プレミアム”なタイヤの量産体制は、高い技術力を持つ鳥栖工場だからこそ構築できたんです」と溝江さんは胸を張る。
パンク対応タイヤの成型工程を確立し、ようやくプロジェクトはフィナーレへと近づきつつあった。
パンク対応タイヤの成型工程を確立し、ようやくプロジェクトはフィナーレへと近づきつつあった。
真摯に取り組む姿勢が、新たなシナジーをもたらす
多くのメンバーがそれぞれの立場で全力でパンク対応タイヤと向き合った結果、2022年9月末にプロジェクトはゴールを迎えた。コロナ禍や安全性の確認のため当初の計画より1年遅れての完成となったが、10月28日の研究成果発表には多数のメディアが集まり、その性能の高さを評価。消防研究センターの久保田室長からは何度も感謝を伝えられ、思わず涙ぐむメンバーもいたという。
プロジェクトの解散と時期を同じくして、吉野さんは定年退職を迎えた。久保田室長から記念に贈られた感謝のメッセージと救急車のミニカーを手に、吉野さんはプロジェクトをこう振り返る。「消防研究センターおよび全国5カ所の消防本部の方々のとても前向きなご協力には心から感謝しかありませんし、プロジェクトメンバーはみんな、他の業務と兼務しながら難題に粘り強く取り組んでくれました。更に、PR動画を制作してくれた広報部、関係各所との契約締結に奔走してくれた法務部や知財部など、協力してくれた方の顔が次々と浮かんできます」。誰かの命を助けたいという強い思いで結ばれた同志たち。このタイヤに携わったメンバーは、気付けば100人を超えていた。
プロジェクトの解散と時期を同じくして、吉野さんは定年退職を迎えた。久保田室長から記念に贈られた感謝のメッセージと救急車のミニカーを手に、吉野さんはプロジェクトをこう振り返る。「消防研究センターおよび全国5カ所の消防本部の方々のとても前向きなご協力には心から感謝しかありませんし、プロジェクトメンバーはみんな、他の業務と兼務しながら難題に粘り強く取り組んでくれました。更に、PR動画を制作してくれた広報部、関係各所との契約締結に奔走してくれた法務部や知財部など、協力してくれた方の顔が次々と浮かんできます」。誰かの命を助けたいという強い思いで結ばれた同志たち。このタイヤに携わったメンバーは、気付けば100人を超えていた。
救急車用スタンダードタイヤを目指して
全国消防長会で本タイヤの販売開始が紹介されると、各地の消防本部から、問い合わせや試乗会の依頼が多数舞い込んだ。今後、冬タイヤへの交換時や救急車・指揮車の新車納車時に多くのタイヤが販売されることが期待されている。
現在は笹川さんがパンク対応タイヤの普及や消防研究センターの窓口などを引き継ぎ、消防本部を訪問して試乗会を開催したり、シンポジウムで周知するといった啓発活動に取り組んでいる。また、鳥栖工場があるご縁から、鳥栖・三養基消防組合にパンク対応タイヤを1セット寄贈。消防組合から感謝状をいただくなど、タイヤを起点とした地域社会との連携強化も進んでいる。
現在は笹川さんがパンク対応タイヤの普及や消防研究センターの窓口などを引き継ぎ、消防本部を訪問して試乗会を開催したり、シンポジウムで周知するといった啓発活動に取り組んでいる。また、鳥栖工場があるご縁から、鳥栖・三養基消防組合にパンク対応タイヤを1セット寄贈。消防組合から感謝状をいただくなど、タイヤを起点とした地域社会との連携強化も進んでいる。
笹川さんは言う。「挑戦の連続を突破できたのは、ブリヂストンの技術力とメンバーの熱い想いがあったからこそ。引き続き消防研究センターと協力して、日本を走る全ての救急車がこのタイヤを装着する日を目指し、変わらぬ熱い思いでアピールに取り組みます」。
タイヤと、そして人命救助の使命感と向き合った日々。多くの人の想いを乗せて。誰かの命のために今、走り続けている。
タイヤと、そして人命救助の使命感と向き合った日々。多くの人の想いを乗せて。誰かの命のために今、走り続けている。
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