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特別座談会 サプライチェーン全体でつくる、タイヤとブリヂストンの未来

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前編では、動画や座談会を通じ、ENEOS様と進める共創プロジェクト「EVERTIRE INITIATIVE(エバータイヤ イニシアチブ)」の概要や背景をご紹介しました。
今回お届けする座談会後編では、さまざまな角度からEVERTIRE INITIATIVEの課題や期待を掘り下げます。

座談会参加メンバー

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(株)ブリヂストン
リサイクル事業準備室長

岸本 一晃さん

リサイクル事業準備室にて、EVERTIRE INITIATIVEを推進。

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ENEOS株式会社
中央技術研究所 技術戦略室長

中野 裕一さん

新規事業の共創に向けた実証実験を担うENEOS中央技術研究所にて、タイヤケミカルリサイクル共創プロジェクトにおける事業化検討・社会実装推進を担う。

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(株)ブリヂストン
Gサステナビリティ戦略統括部門長

稲継 明宏さん

ブリヂストンのグローバルサステナビリティビジネス戦略を統括。

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ブリヂストンタイヤリサイクルセンター大阪(株)
代表取締役社長

若井 真人さん

関西エリアにて使用済タイヤの中間処理とリトレッドタイヤの工場機能を担う。

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ブリヂストンタイヤサービス東日本(株)
首都圏支社 支社長

堀井 雅史さん

トラック・バス輸送事業者様向けに、幅広くタイヤの販売とメンテナンス作業を担う。

小売と中間処理の現場から見たEVERTIRE INITIATIVE

――岸本さんのお話にもあったように、ブリヂストンに迫るリスクの一つとして「使用済タイヤの処理体制の確保」を継続していけるか?が挙げられています。中間処理業を担う若井さん、いかがでしょう?

若井さん 当社は回収した使用済みタイヤの中から検査を通過したものはリトレッドタイヤとして生まれ変わらせ、検査を通らなかったものはタイヤチップに破砕処理して出荷しています。使用済タイヤは“廃棄するもの”ではなく“リサイクルするもの”という認知が社会に浸透してきたことから、使用済タイヤチップを燃料として使いたいという声は年々増えています。

岸本さん 「タイヤは資源である」という考え方が社会に浸透してきているのですね。

若井さん 一方で、タイヤの破砕量を急激に増加させたり、あるいは事業者が新規参入したりするのは難しいという現状があります。使用済タイヤは産業廃棄物に分類されるため、行政からの認可がないと事業運営ができません。破砕するための機械を一台導入するのにも厳しい審査を受けなければならないんです。

今現在は回収量と出荷量がある程度バランスを保っていますが、もし中間処理業者が撤退したり、燃料利用先が急に減少したりすると、バランスが一気に崩れ、使用済タイヤが行き場をなくしてしまう可能性があると危惧しています。
稲継さん まさにリスクですね。使用済タイヤが、山中や道端に不法投棄されてしまう事態になりかねません。

若井さん​ そうなんです。だからこそEVERTIRE INITIATIVEには期待していますし、回収量と出荷量のバランスを崩さないためにも、ぜひ連携を深めていきたいと思っていますよ。

――そもそも、タイヤはさまざまな物質が混ぜ合わせてできています。熱分解して分解油を取り出すことは、非常に難易度が高いのではないでしょうか?

岸本さん そうなんです。皆さんご存知の通り、タイヤにはカーボンブラックなどさまざまな物質が入っていますから、それを分離させることは簡単ではありません。

中野さん 実証実験を通じて、タイヤに含まれている物質が、精製プロセスの触媒寿命へ影響を与えたり、分解油を送る配管を詰まらせたり、さまざまな課題も見つかっています。今後はこれらの不要な物質をどのように取り除くかに注力していく予定です。

若井さん この機会に一つリクエストさせてください。

タイヤチップを燃料として使うお客様からは、「中間処理段階でもっと細かく砕いてほしい」、「ビードワイヤー等の金属を取り除いて欲しい」などさまざまな要望をいただきます。これらの要望に応じるには設備投資が必要となりますし、新しい機械に対する行政からの認可も必要です。もしEVERTIRE INITIATIVEの熱分解にあたって破砕方法にリクエストが発生するのであれば、時間をかけて一緒に検討を進めていきたいです。

岸本さん ありがとうございます。ぜひご相談させてください。
――小売の視点ではいかがでしょう。EVERTIRE INITIATIVEにどのような印象を持たれていますか?

堀井さん 小売の現場でも低燃費タイヤやリトレッドタイヤなどの環境負荷軽減に貢献する製品の認知度が非常に高まっていますし、導入していかなければならないものだと認識が変わってきていると感じています。

ただ、実際に環境負荷の側面から製品の導入が進んでいるのは大手の輸送事業者がほとんどで、中小規模の輸送事業者はなかなか踏み切れていない、という現状があります。
岸本さん どのようなハードルがあるのでしょうか。

堀井さん 輸送事業者がタイヤに求めるポイントは、主に「安全」「コスト」「業務効率化」そして「環境負荷」の4つ。昨今は燃料費をはじめさまざまなコストが上昇していますから、環境に良いというメリットだけでは導入のハードルを超えづらいんです。「コスト」も「環境負荷」もメリットがあるリトレッドタイヤのように、多面的にお客様のベネフィットに結びつく製品が求められています。


――将来的なケミカルリサイクルの社会実装を考えた場合、お客様と直接接する小売の現場は今以上に使用済タイヤの回収拠点になる可能性がありますね。

堀井さん そうですね、ただある程度数量が貯まらないと回収効率は悪いでしょうし、一時的に保管しておくには場所が必要です。うまく中間処理フェーズへつなげていくためにも、より良い効率で回収する方法を考える必要がありそうです。

若井さん それに回収業務は体力と根気がいりますから。昨今は人手不足も問題となってきていますし、人財確保も考慮する必要がありますね。

岸本さん 貴重なご意見ありがとうございます。このプロジェクトにはサプライチェーン全体に関わる取り組みですから、技術開発だけでなく、全体を見渡して最適化を図る必要がありますね。

中野さん 現在、実証実験を通じてどのタイヤがケミカルリサイクルに適しているのか、またどのくらいの量のタイヤを回収する必要があるのかを算出しようとしています。こうしたデータと現場の皆さんの意見を基に、最適化を図っていきます。

ブリヂストンも社会も。みんなに必要なマインドセットとは

――タイヤをタイヤに生まれ変わらせることによって、コストアップの問題も発生するのでしょうか。

堀井さん 小売の立場からすると、技術開発のコストがどのくらい製品価格へ反映されるのかはとても気になりますね。

岸本さん そうですね。まだ実証実験段階ではありますが、熱分解技術など新しい取り組みに挑戦しているためコストアップは避けては通れない問題になってくるでしょう。

堀井さん ただ「タイヤから生まれ変わったタイヤだから」というご説明だけでは、コストアップをご納得いただくのは難しいと思います。なぜタイヤのリサイクルが必要だったのか、どうやって技術を確立させたのかなど、EVERTIRE INITIATIVEのストーリーまでご理解いただけたなら、価格についてもご納得いただきやすくなるかもしれません。
稲継さん そうですよね。今は交換した後のタイヤがどうなっていくのかわからない、もしくは興味がないという方がほとんどだと思います。

若井さん ブリヂストングループで働く方の中にも、使用済タイヤがどのように加工され、再利用されているのかをご存知ない方がまだまだ多くいらっしゃると思います。この機会にぜひ、日々携わるタイヤの行く末にも興味を持っていただきたいですね。

岸本さん おっしゃる通りです。だからこそEVERTIRE INITIATIVEでは「廃タイヤ」という言い方をせず、「使用済タイヤ」と表現しています。「タイヤは資源である」ということを改めて周知し、マインドセットしていきたいという考えからです。

稲継さん こうしたマインドセットが社会全体で進み、一般消費者や事業者様から「ブリヂストンでタイヤを交換したら、使用を終えたタイヤはちゃんとケミカルリサイクルされて、またタイヤになるんだ」という段階まで認知されたなら、ブリヂストンは今以上に“選んでいただける”企業になれるはずです。

若井さん その上で、政府や業界団体からの後押しがあるとなお良いですよね。例えば、「メーカーはリサイクル部材を◯%使用してください」「事業者はリサイクルタイヤを全体の◯%導入してください」といった、リサイクルタイヤを採用しやすくなるような新たな規制が生まれたら、市場全体が本気で導入を始めると思います。政府や業界団体へのアプローチも合わせて進めていくことも必要ではないでしょうか。
稲継さん そうですよね。欧州では、EV車のバッテリーや自動車部品にリサイクルされた素材がどのくらい使われているのか、一般消費者が情報開示を求める動きがあります。今後、日本においても部材や素材がどのように作られたものなのか、透明性のある情報が求められていくでしょう。こうした社会の動きを踏まえると、EVERTIRE INITIATIVEはブリヂストンにとって“将来への投資”であると言えますね。


――最後に「Arrow」読者へメッセージをお願いします。

岸本さん このプロジェクトにはサプライチェーン全体の協力が欠かせません。むしろ技術開発だけで進めてしまうと、ご意見いただいたタイヤの破砕処理サイズやコストの問題のようにどこかで不都合が起きてしまいます。座談会を通じて、全体最適の大切さを改めて感じました。

中野さん そうですね。全体最適は常に意識していくべきだと改めて感じました。また、今回のように新しい価値を作っていくプロジェクトは、ハードルも少なくありませんが、循環サイクルに関わるすべての皆様と気持ちを一つに共に歩みを進めていきたいと強く感じています。
稲継さん 近年、サステナビリティの先を行く概念として、リジェネレーション(Regeneration)という言葉が注目されています。単に「sustain(持続する、保つ)」という概念だけで行動するのではなく、むしろ積極的に「regenerate(再生する)」しながら、将来世代のためにより良い環境を残していくべきではないでしょうか。

限られた資源を守り、ブリヂストンが将来世代へ残る企業であるために、ぜひリジェネレーションに取り組むEVERTIRE INITIATIVEの進捗に注目していただきたいです。

堀井さん 私たちは普段、当たり前のようにタイヤを供給いただき店頭に並べていますが、タイヤを安定的に販売できなくなる可能性があることは大きな気付きとなりました。リプレイスや販売部門の従業員も「タイヤがあることが当たり前ではない」という危機感を持ち、それぞれの視点から新しい価値創造に貢献していけたらと思います。

若井さん ブリヂストンはサプライチェーンのあらゆるところにタッチポイントを持っています。きっとEVERTIRE INITIATIVEが実現したら、タイヤに触れるすべての方が「このタイヤはまたタイヤに生まれ変わるんだな」と前向きな気持ちになるのではないでしょうか。明るい未来に期待しています。

岸本さん 皆さん、本日はさまざまな視点からご意見をいただき、ありがとうございました。ブリヂストンがお客様と社会全体に価値を提供し続ける企業であり続けるために、これからも挑戦を続けていきます。

EVERTIRE INITIATIVEはタイヤのサプライチェーン全体に関わる活動ですから、共創パートナーであるENEOS様をはじめ、ブリヂストンで働くすべての皆さんからのご理解、ご協力がなくては実現できません。皆さんからのご意見・ご感想はプロジェクトの大きな推進力となります。ぜひお寄せください。

――皆さん、ありがとうございました。

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