• TOP
  • 記事
  • タイヤを支える重要部材に再生資源を 3社の共創で突破した「最後の難関」

タイヤを支える重要部材に再生資源を 3社の共創で突破した「最後の難関」

世界最高峰のソーラーカーレース「Bridgestone World Solar Challenge(以下、BWSC)」。2025年大会でブリヂストンが供給したタイヤのビードワイヤーに用いられたのは「使用済タイヤ由来の鋼材」(以下、再生スチール)。この再生スチールの実用に向け、もともとビードワイヤー用線材の製造を担っていた日本製鉄株式会社(以下、日本製鉄)、電炉による高品質鋼材の製造に強みを持つ山陽特殊製鋼株式会社(以下、山陽特殊製鋼)、そしてブリヂストンの3 社が連携。国内でも極めて前例の少ないプロジェクトに挑んだ。

タイヤを構成する部材(乗用車タイヤの例)

再生スチール

画像

(株)ブリヂストン
補強材技術戦略・開発部 補強材技術研究・戦略課主査

德冨 一敬さん

【ブリヂストンの役割】
プロジェクト全体の企画・推進と再生資源を用いたタイヤ鋼材の性能評価を担当 

画像

山陽特殊製鋼 (株)
生産技術部長

河本 達也さん

【山陽特殊製鋼の役割】
使用済タイヤ由来の鉄スクラップを電炉で溶解する際の条件検討を担当     

画像

日本製鉄 (株)
棒線事業部 棒線技術部 棒線商品技術室 部長代理

中村 謙一さん

【日本製鉄の役割】
山陽特殊製鋼から提供された再生スチールを圧延・熱処理しビードワイヤーへ加工

3社それぞれの強みを結集し、前例のない挑戦へ

ビードワイヤーは、タイヤの骨格を形成するカーカスコードの両端を固定すると同時に、タイヤをリムに固定させる役割を担う重要な部材。ここに再生スチールを用いるべく、今回のプロジェクトが立ち上がった。

「再生資源・再生可能資源比率の拡大において、ゴムやカーボンブラックでは道筋が見えていましたが、再生スチールの適用は高いハードルで、まさに『最後の難関』。ただ、ここを突破できれば、大きく前進できると考えました」と德冨さんは振り返る。

德冨さんが声を掛けたのは、市販用タイヤ用途の線材で取引のあった日本製鉄。中村さんは「鉄はもともとリサイクル率が高い素材ですが、タイヤ用途のビードワイヤーのように、鉄の純度や強度を保ったものに再生するのは、非常に難しい挑戦でした」と語る。

日本製鉄:中村さん「鉄の純度や強度を保ったものに再生するのは、非常に難しい挑戦でした」

通常、鉄の生産で多く用いられるのはコークスの燃焼熱で鉄鉱石を還元する「高炉」で、日本製鉄もこれを得意分野とする。一方で、鉄を「再生」する上では、主原料は鉄鉱石ではなく鉄スクラップ。サビや不純物が多い鉄スクラップに対しては、電流アーク熱でスクラップを溶解できる「電炉」が適している。この分野で強いノウハウを持つパートナーとして、最初に中村さんの頭に浮かんだのは、同社グループ内で電炉技術に強みを持つ山陽特殊製鋼。「ビードワイヤーは未知の分野でした。それまでうちの会社で取り扱っていた製品とは異なる高い品質が求められるため、『本当にできるのか』という不安もありました」と河本さんは振り返る。

鉄スクラップ由来の問題と向き合い、乗り越える

最大の課題は再生スチールに残ってしまう不純物だった。「普通の鋼材なら問題にならないレベルの不純物が、ビードワイヤーでは即アウト。細い線に力が集中するので、わずかな異物でも破断につながるんです」(中村さん)。

なかでも厄介だったのがアルミナ(酸化アルミニウム)の発生である。電炉では鉄スクラップのサビや水分由来の酸素が入り込み、品質低下を招く。そのため、酸素を取り除く「脱酸」処理を、酸化力の強いアルミニウムを投入して行うことが多いが、その際に生じるアルミナが問題だった。「ビードワイヤーのような細い線材では微量のアルミナも致命的。アルミナは鉄より硬く、線材を引き伸ばすときに割れや断線の原因になるのです」(德冨さん)。

山陽特殊製鋼では、この課題を解決するため、脱酸剤をアルミニウムから「シリコン」に切り替えた。シリコンはアルミニウムと比べて酸化しにくく不純物が残りにくいが、酸素を除去する力が弱いため、高品質な製品には使用される前例がなかった。「シリコンで酸素を十分に除去するため、投入のタイミングや温度など、さまざまな条件を1つずつ試していきました」(河本さん)。

山陽特殊製鋼:河本さん「さまざまな条件を1つずつ試していきました」

もう1つの壁が「ガス」である。スクラップを電炉溶解し、鋼を製造する工程でガスを使用するが、このガスが、再生した鉄に小さな空洞として残ることがある。細いビードワイヤーでは、この空洞も割れや断線の原因になるため、さまざまな条件を変えながら試験を繰り返し、原因の分析と、空洞ができない条件を探し続けた。

「毎回、結果を見て『何が起きているのか』を3 社で議論していました。やって終わりではなく、やって、確かめて、またやる。その繰り返しです」(德冨さん)。

2022年末にこれらの課題を克服できる操業条件を確立。タイヤに使用できる品質を持つ再生スチールをついに実現した。

「バリューチェーン全体のサステナブル化」への大きな一歩

完成した再生スチールはブリヂストンのBWSC車両タイヤに採用され、約3,000kmの過酷なレースでも安定した性能を発揮した。「使用済タイヤ由来の再生スチールが、ビードワイヤーとして十分に機能することを実証できました」(德冨さん)。

今回の成果は、もともと「高炉でしかつくれなかった」高品質な製品を、使用済タイヤ由来の鋼材も使用し、かつ鉄スクラップ活用の面で優れている電炉を用いて再現した国内初の事例。「循環型社会の実現は非常に重要なテーマ。そういう観点でも、今回成し遂げた成果はとても大きな意味を持ちます」(中村さん)。

山陽特殊製鋼にとっても、電炉の新たな可能性を示す成果となった。「ビードワイヤーのような分野で電炉が通用することを示せたのは大きな一歩です。今後の材料開発にもつながる経験になりました」(河本さん)。

この取り組みは、「バリューチェーン全体のサステナブル化」の実現に向けた重要なステップ。「単なる再利用ではなく、『高品質な形で戻す』ということを、ビードワイヤーより細いスチールコードにも広げていきたいです」(德冨さん)。

ブリヂストン:德冨さん「『高品質な形で戻す』ということを、ビードワイヤーより細いスチールコードにも広げていきたいです」

アンケートへのご協力をお願いいたします。ご回答内容は今後の記事制作に活用させていただきます。


みんなからのコメント待ってるよ!
コメントする

※「コメントする」を押してもすぐにはコメントは反映されません。
管理者にて確認の上、反映されます。コメント掲載基準については こちら をご覧ください。
尚、投稿者につきましては、管理者でも特定できない仕様になっております。

コメント(0)

ページトップへ戻る