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究極の円さを実現 高インチプレミアムタイヤのモノづくりの進化

クルマの乗り心地やハンドリング性能に影響するタイヤの「円さ」。ブリヂストンのタイヤの強みの1つです。この「円さ」を示す指標であるユニフォミティを高める取り組みが進められています。プレミアムタイヤの商品価値向上を成し遂げた皆さんにお話を伺いました。
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(株)ブリヂストン
タイヤ生産基盤改革部門 消費財成型標準改革課長
山田 竜次さん

課長としてテーマ企画立案、プロジェクト進捗管理、海外展開を推進。                

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(株)ブリヂストン
タイヤ生産基盤改革部門 消費財成型標準改革課
上條 哲史さん

センシング技術を用いて、タイヤの骨格部材を膨らませる工程での「膨らみ量」の計測や制御手法を確立。

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(株)ブリヂストン
タイヤ生産基盤改革部門 消費財成型標準改革課
阪野 浩司さん

成型設備の新形状設計と成型条件の最適化を担当し、仮説の検証や、工場との折衝などに従事。     

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(株)ブリヂストン
タイヤ生産基盤改革部門 消費財成型標準改革課
喜多 真一さん

成型機の耐久試験を担当。成型機が長期間使用されていく様子を短期間で再現する実験方法の検討と実行。

グローバルでユニフォミティ品質の底上げを目指して

Arrow編集部 本プロジェクトの概要について教えてください。

山田さん 私たちが所属する消費財成型標準改革課では、主にタイヤの成型工程における製造品質の改善に取り組んでいます。このテーマがスタートしたのは2021年1月頃。海外の完成車メーカーによる、HRDタイヤ※1のユニフォミティへの要求が上がり続けている状況に対応すべく、グローバルでの品質底上げを目指して製造技術の見直しを始めました。

※1 HRDタイヤ:High Rim Diameterの略語で、乗用車用の高インチタイヤのこと

山田さん

上條さん タイヤの円さを表すユニフォミティの指標の1つに、RFV(ラジアル・フォース・バリエーション)があります。これは、タイヤが一周した時の力の振れ具合を表したもので、接地面と車両にかかる力が均一かどうかを示しています。完成車メーカーの要求基準から外れると、新車装着用タイヤとして納品することができなくなるため、工場コストの悪化につながります。

上條さん

阪野さん RFVはタイヤの乗り心地にも影響するため、この指標が悪ければお客様からのクレームにもつながりかねません。従来は製造されるタイヤごとに、ユニフォミティにバラツキが生じていたのですが、その原因がどこにあるのかを探るべく、我々は「成型機」 に着目しました。

生産性と計測精度の両立という課題

上條さん 成型機の基本的な機能として、「巻く」「切る」「膨らます」「組み立てる」がありますが、私は「膨らます」の工程を担当しました。従来、この工程におけるタイヤの膨らみ具合やバラツキの有無は、稼働中の成型機を止めて測定することが難しいためデータが取れず、現場の勘に頼っている状況でした。センシング装置を導入して測定するにしても、成型機の稼働を止めるなどすれば、生産能力にも影響が生じます。どのようにデータを取るかが大きな課題でした。
理想は、生産性を損なわず、成型機が動いている最中にデータを計測すること。計測の精度を保ちながら、この実現に向けて試行錯誤を繰り返しました。
機密性が高いため詳細はお話できない のですが、検討を重ねた結果、成型作業中にデータを計測する方法を確立。タイヤがどれだけ真円に近いのかを精度高く把握できるようになりました。

上条さんは「膨らます」工程における計測と制御に尽力した

阪野さん 私の役割は成型されるタイヤが徐々に真円から外れていく理由を明らかにすること。設備の稼働が続くことで、どのようにズレが生じていくのか、各工場で定期的に実施している設備点検の膨大なデータから、その要因を調べました。データの集計作業だけでも大変でしたが、本当に苦労したのは、マシンの精度が悪くなる原因の特定と対策の立案です。コストや効果などを比較して、適切な改善策を見出すまで、約2年という歳月を要しました。
また、対策案を複数考えても、どの対策が本当に有効なのかを検証することも簡単ではありません。実際にマシンが壊れるまでには、タイヤを数万回、数十万回成型する、年単位の時間が必要です。その課題を解決してくれたのが喜多さんでした。

阪野さん

2週間で33年分のデータを取得

喜多さん 私は課の皆さんの困りごとを聞いて、目的に合致するセンシング方法や、必要なデータを取れる実験方法を検討しました。
成型機に対する試験は、阪野さんの言う通り、通常の方法での検証は年単位の膨大な時間がかかるため、社外の研究機関の機器を活用して加速試験を行いました。短時間で高負荷をかけるこの試験では、成型機の数年分の稼働に該当するデータを、数日で得ることができます。また、機器を借りられる期間には限りがあるため、その期間中に答えを出せるよう、さまざまな測定条件を組み合わせて効率的な試験方法を模索。最終的には、通常の800倍、2週間の稼働で33年分のデータを出す条件を確立することができました。

喜多さん

山田さん メンバーの活躍で、今まではなんとなく「こうだろう」と思っていたことをデータで解明することができました。成型機のある部品への過負荷によって、タイヤ部材にも影響が出ることを突き止めたのです。この特定の部品への負荷と、それに起因するタイヤへの影響が見えた時は、「ようやく原因を突き止められた」と感無量でしたね。

従来品比で円さを30%改善、究極の品質を実現

Arrow編集部 課題解決に向けての、その後の取り組みと成果を教えてください。

山田さん 今回の原因究明を受け、現場の皆さんのご理解も得ながら、さまざまな工場で稼働しているHRD用成型機の改善を進めているところです。もちろん、これから新しく導入される成型機についても、今回の改善は折り込まれていきます。
既に改善が進んでいる工場では、円さが改善されたことがデータでも表れており、当社従来品との比較で、真円度は約30%改善されています。もともとブリヂストンは最高の品質のタイヤを作っていますが、今回の成果により、究極とも言える品質へと進化したと考えています。

従来品と比較して、真円度を大幅に改善

Arrow編集部 商品設計基盤技術「ENLITEN®」との関わりについてはいかがでしょうか。

山田さん 中期事業計画(2024-2026)では、タイヤの生産技術における目標の1つに「究極の円さ」の追求が掲げられています。加えて「ENLITEN」では、タイヤの基本性能の1つに「円く」の要素が示されていて、まさにそれらを体現する取り組みです。その実現を支えたのが、タイヤ生産基盤改革部門が目指す、「暗黙知の形式知化」「標準のシンプル化」「未知の匠領域の標準化」という3つの「標準の進化」だと思います。先の見えないモヤッとした内容を、メンバーで話し合って本質課題を特定し、解決のための施策を現場に標準の技術パッケージとして展開につなげることができました。「ENLITEN」やモノづくり基盤技術「BCMA」と一緒に活用していくことで、製造チームやお客様、そしてブリヂストンに新しい価値をもたらすことができると確信しています。

「Bridgestone E8 Commitment」における、特に「Efficiency」を体現する優れた価値創造につながる取り組みとしてBridgestone Group Awards 2023を受賞。表彰式でスピーチをする阪野さんと山田さん

品質の追求にゴールはない

Arrow編集部 今後の意気込みと、グループ従業員の皆さんへのメッセージをお願いします。

上條さん 今回の取り組みを通じて、他にも改善につながる可能性が見えてきたことがあります。例えば、製造現場における季節差によるブレの解消です。夏と冬とで、発生しやすい不良が違うことは現場の経験則としてあります。実際に、成型機に導入したセンサーのデータを見ると、原因が特定され解決につながったものもあります。「原因はわからない。だけど問題がある」と現場で感じられていた事象について、その原因を突き止め、工場の皆さんと共有できたことで、改善に向けて同じ方向を向いて取り組めたところがすごく良かったと思っています。今後の業務においても、関連部署の皆さんと目線を合わせて取り組んでいきたいですね。

阪野さん そうですね。何が原因で不具合が発生するのかを、具体的なデータや数字で理解する、いわばあるべき原理原則の部分をしっかりつかむことができたのは大きな一歩だと思います。引き続き、成型機の改善につながる取り組みを各工場の皆さんと一緒に進めていきたいです。

喜多さん 今回の取り組みの過程で、タイヤの生産技術においては、まだまだ測れるデータがあること、タイヤを何十年も作っていても、まだ見えていない数値がたくさんあることに気づきました。今後も、見えないものを見えるようにする技術開発に取り組んでいきます。

山田さん さまざまな工場、特に鳥栖、彦根、栃木の皆さんのご協力に感謝します。 “究極の円さ”を追求していくためには、まだまだやるべきことがたくさんあります。これから注力したいのは自動化の推進です。「巻く」「切る」「膨らます」「組み立てる」の各工程において、人の手が介入されている部分でのバラツキ要因を特定し、その解消のための自動化を推進していきます。ブリヂストンのプレミアム戦略を支えるために、モノづくりを極めていきたいですね。
本取り組みも表彰された、BGAの特設ページはこちら (社内イントラページ※2) 
BGA2023表彰式の様子をまとめたダイジェスト動画や各受賞チームの発表動画がアップされています。

※2 Web環境によって閲覧できないことがございます。

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