天然ゴムと向き合う、終わりなき挑戦
人類が天然ゴムをタイヤの原材料として活用しはじめて140年以上が経ち、これまでに多くの研究がなされてきましたが、その全てについてはいまだに解き明かされていない「未知の原材料」です。
東京・小平の技術センターでは、そんな天然ゴムと日々向き合い、メカニズムを解き明かし、機能を引き出すための研究に挑み続ける仲間たちがいます。わからないからこそ、追い求める—— 研究の最前線に立つ皆さんにお話を伺いました。
東京・小平の技術センターでは、そんな天然ゴムと日々向き合い、メカニズムを解き明かし、機能を引き出すための研究に挑み続ける仲間たちがいます。わからないからこそ、追い求める—— 研究の最前線に立つ皆さんにお話を伺いました。
(株)ブリヂストン 先端技術総合研究所 首席研究主幹
角田 克彦さん
小平技術センターにおいてゴムの力学物性に関する研究開発に従事。公的資金を活用した天然ゴムの研究開発プロジェクトにも参画
(株)ブリヂストン 革新材料技術戦略・研究部 戦略天然ゴム・フィラー研究課
藤野 慶子さん
天然ゴムの強度向上を目指し、新規の戦略天然ゴム技術開発を担当
(株)ブリヂストン 革新材料技術戦略・研究部 戦略天然ゴム・フィラー研究課
佐藤 愛理さん
天然ゴムの本質解明に基づいた、天然ゴムの使いこなし技術の開発を担当
天然ゴムは、いまだに謎の多い原材料
まだ誰も説明できない分子構造
藤野さん ブリヂストンの主力商品はタイヤですが、その構成比率のうち、約半分が「ゴム」。そのゴムのさらに半分程度に天然ゴムが用いられています。部材によって求められる性能が異なるため、その使用比率も異なりますが、天然ゴムでしか出せない「耐久性」が高品質なタイヤを支えています。
角田さん ただ、天然ゴムって、実はまだまだ謎が多い原材料なんです。過去から多くの研究や開発がなされてきて、学術論文も多くありますが、本当の意味で「天然ゴムとは何か」、特に肝心な分子構造の一部が、いまだに解明されていないんです。
佐藤さん 天然ゴムの分子は、長い紐のような形状をしています。大枠の構造は分かっているんですが、その紐の端である「末端」の部分がどうなっているのかがよく分かっていないんです。ただ、この分からない構造があるからこそ、合成ゴムでは再現できない機能を発現しているのが事実です。
藤野さん ブリヂストンの主力商品はタイヤですが、その構成比率のうち、約半分が「ゴム」。そのゴムのさらに半分程度に天然ゴムが用いられています。部材によって求められる性能が異なるため、その使用比率も異なりますが、天然ゴムでしか出せない「耐久性」が高品質なタイヤを支えています。
角田さん ただ、天然ゴムって、実はまだまだ謎が多い原材料なんです。過去から多くの研究や開発がなされてきて、学術論文も多くありますが、本当の意味で「天然ゴムとは何か」、特に肝心な分子構造の一部が、いまだに解明されていないんです。
佐藤さん 天然ゴムの分子は、長い紐のような形状をしています。大枠の構造は分かっているんですが、その紐の端である「末端」の部分がどうなっているのかがよく分かっていないんです。ただ、この分からない構造があるからこそ、合成ゴムでは再現できない機能を発現しているのが事実です。
角田さん 負荷が大きく、過酷な環境で使われるようなタイヤ程、より強さが求められますので、その分、耐久性に優れる天然ゴムの役割は大きくなっていきます。
「伸長結晶性」という不思議な性質
藤野さん 角田さんの言うとおり、天然ゴムが使われ続けている一番の理由は、高い耐久性です。その源になっているのが、「伸長結晶性」と呼ばれる性質。ゴムを引っ張ると、内部の分子が自然に整列して、結晶状態をつくります。引っ張られてある歪(ひずみ)に到達すると、ゴムそのものが強くなるということです。これが、裂けにくさや高い耐久性につながっています。
同じような構造を再現した合成ゴムもありますが、それでも天然ゴム程の強さは出せていません。理由は完全には分かっていませんが、その理由の1つには末端の構造の違いが影響していると考えられています。
藤野さん 角田さんの言うとおり、天然ゴムが使われ続けている一番の理由は、高い耐久性です。その源になっているのが、「伸長結晶性」と呼ばれる性質。ゴムを引っ張ると、内部の分子が自然に整列して、結晶状態をつくります。引っ張られてある歪(ひずみ)に到達すると、ゴムそのものが強くなるということです。これが、裂けにくさや高い耐久性につながっています。
同じような構造を再現した合成ゴムもありますが、それでも天然ゴム程の強さは出せていません。理由は完全には分かっていませんが、その理由の1つには末端の構造の違いが影響していると考えられています。
戦争の歴史から生まれた「合成ゴム」
合成ゴムの研究が本格的に始まった背景には、戦争による資源不足がありました。
第一次世界大戦で、天然ゴムの供給を断たれたドイツが、代替素材として人工ゴムの開発に着手。第二次世界大戦では、アジアからの天然ゴム供給ルートを失ったアメリカが、国家プロジェクトとして合成ゴムの研究開発を加速させました。
その後も現在に至るまで世界各国で研究が続けられてきましたが、天然ゴムが持つ特有の強さやしなやかさを完全に再現することはできておらず、天然ゴムが人為的に置き換えることの難しい原材料であることを物語っています。
合成ゴムの研究が本格的に始まった背景には、戦争による資源不足がありました。
第一次世界大戦で、天然ゴムの供給を断たれたドイツが、代替素材として人工ゴムの開発に着手。第二次世界大戦では、アジアからの天然ゴム供給ルートを失ったアメリカが、国家プロジェクトとして合成ゴムの研究開発を加速させました。
その後も現在に至るまで世界各国で研究が続けられてきましたが、天然ゴムが持つ特有の強さやしなやかさを完全に再現することはできておらず、天然ゴムが人為的に置き換えることの難しい原材料であることを物語っています。
「分からない」原材料と向き合う研究
佐藤さん もちろん、天然ゴムの全てを解明できるのが理想です。しかし、全体解明にこだわりすぎてもビジネスは前に進みません。私たちの課では「本質理解」を重視し、全体解明に取り組みながらも、より優れた「使いこなし」も目指しています。天然ゴムのさらなる高機能化により、お客様の安全と快適につながる商品を提供できるよう、研究開発を進めています。
伸長結晶化についても、日本国内の大学や公的研究機関との連携、日本最先端の機器を活用した研究開発を通して新しい知見が得られてきています。昨年にはその成果を国際学会でも発表しました。これらの知見をもとに「こういう条件だとこんな強さが出せる」「こうすると特徴が活かせない」といった「使いこなす」技術の確立を進めています。これらを積み重ねて、技術としてビジネスに応用できる形にしていくのも研究だと思います。
佐藤さん もちろん、天然ゴムの全てを解明できるのが理想です。しかし、全体解明にこだわりすぎてもビジネスは前に進みません。私たちの課では「本質理解」を重視し、全体解明に取り組みながらも、より優れた「使いこなし」も目指しています。天然ゴムのさらなる高機能化により、お客様の安全と快適につながる商品を提供できるよう、研究開発を進めています。
伸長結晶化についても、日本国内の大学や公的研究機関との連携、日本最先端の機器を活用した研究開発を通して新しい知見が得られてきています。昨年にはその成果を国際学会でも発表しました。これらの知見をもとに「こういう条件だとこんな強さが出せる」「こうすると特徴が活かせない」といった「使いこなす」技術の確立を進めています。これらを積み重ねて、技術としてビジネスに応用できる形にしていくのも研究だと思います。
産地の仲間と共に 解き明かしながら使いこなす
日本とインドネシア、お互いが同じ方向を向いて
佐藤さん 天然ゴムはパラゴムノキの樹液(以下、ラテックス)からつくられるため、工業製品でありながら、農作物でもあります。気候や土壌の状態など、さまざまな要因が性能に影響するため、木の栽培状態や、ラテックスの処理プロセスの管理が大切になります。現場から得られる知見も天然ゴムの本質理解には欠かせません。
藤野さん その点、ブリヂストンは自社農園を複数運営していることに大きな強みがあります。インドネシアのスマトラ島にある農園(PT. Bridgestone Sumatra Rubber Estate、BSRE)には研究施設もあります。現地で研究を進める仲間たちと一緒に、さまざまな議論を行い、試行錯誤を重ねながら研究開発を進めています。
そして、さまざまな条件でラテックスから作製した天然ゴムを日本に送ってもらい、それらの性能を評価。結果をまた現地にフィードバックすることで、次の検討につながっていきます。日本とインドネシア、双方で連携して研究を進めていく。農作物である天然ゴムと向き合うために、遠い地にいる仲間たちとも密に連携しています。
佐藤さん 天然ゴムはパラゴムノキの樹液(以下、ラテックス)からつくられるため、工業製品でありながら、農作物でもあります。気候や土壌の状態など、さまざまな要因が性能に影響するため、木の栽培状態や、ラテックスの処理プロセスの管理が大切になります。現場から得られる知見も天然ゴムの本質理解には欠かせません。
藤野さん その点、ブリヂストンは自社農園を複数運営していることに大きな強みがあります。インドネシアのスマトラ島にある農園(PT. Bridgestone Sumatra Rubber Estate、BSRE)には研究施設もあります。現地で研究を進める仲間たちと一緒に、さまざまな議論を行い、試行錯誤を重ねながら研究開発を進めています。
そして、さまざまな条件でラテックスから作製した天然ゴムを日本に送ってもらい、それらの性能を評価。結果をまた現地にフィードバックすることで、次の検討につながっていきます。日本とインドネシア、双方で連携して研究を進めていく。農作物である天然ゴムと向き合うために、遠い地にいる仲間たちとも密に連携しています。
未知だからこそ、拡がる可能性
これからも性能を進化させていく
佐藤さん 繰り返しになりますが、天然ゴムについてはまだわからないことが多くあります。「天然ゴムの謎を根本から解き明かすことができればノーベル賞ものだ」と言われることもあるくらい、難易度が高く、挑戦しがいのあるテーマ。ただ、確実にその研究は前に進んでいます。伸長結晶性についても、この性質が見つかってから、およそ100年が経ちましたが、いまだに完全にはわかっていません。つまり、これから解き明かせることや、引き出せる性能が、まだ数多く残されているということです。
私自身も、そうした未知の部分を1つずつ解き明かしていきたいと思っています。その積み重ねの先に、これまでにない性能につながる鍵があるはずです。
藤野さん 私のミッションはこれまでもこれからも、「安心・安全でお客様に快適に使っていただけるタイヤを支える、強くて高い付加価値を持つ天然ゴムをつくること」。天然ゴムは農作物です。天候や土壌の影響で野菜や果物の味が変わるように、天然ゴムの性能もさまざまな要因に左右される難しい原材料です。
だからこそ、現地に研究環境がある強みを活かして、高品質な天然ゴムを開発していきたいです。地道で難しい研究ですが、ブリヂストンの商品が、もっと信頼されていくために、必要なことだと信じています。
角田さん 佐藤さんが言ってくれた、天然ゴムの「本質理解」に取り組みながら、より優れた「使いこなし」、そしてさらなる高機能化を進めること。そして藤野さんが進めている、より強く、高い付加価値を持つ天然ゴムづくり。これらに取り組んでいくことで、ブリヂストンの商品はこれからも進化し続けていきます。
私は約30年間、ゴムの研究開発に携わってきましたが、先輩たちから受け継いだものや、自分たちが積み上げてきたものを、次世代を担う仲間たちへつないでいきたいですね。
佐藤さん 繰り返しになりますが、天然ゴムについてはまだわからないことが多くあります。「天然ゴムの謎を根本から解き明かすことができればノーベル賞ものだ」と言われることもあるくらい、難易度が高く、挑戦しがいのあるテーマ。ただ、確実にその研究は前に進んでいます。伸長結晶性についても、この性質が見つかってから、およそ100年が経ちましたが、いまだに完全にはわかっていません。つまり、これから解き明かせることや、引き出せる性能が、まだ数多く残されているということです。
私自身も、そうした未知の部分を1つずつ解き明かしていきたいと思っています。その積み重ねの先に、これまでにない性能につながる鍵があるはずです。
藤野さん 私のミッションはこれまでもこれからも、「安心・安全でお客様に快適に使っていただけるタイヤを支える、強くて高い付加価値を持つ天然ゴムをつくること」。天然ゴムは農作物です。天候や土壌の影響で野菜や果物の味が変わるように、天然ゴムの性能もさまざまな要因に左右される難しい原材料です。
だからこそ、現地に研究環境がある強みを活かして、高品質な天然ゴムを開発していきたいです。地道で難しい研究ですが、ブリヂストンの商品が、もっと信頼されていくために、必要なことだと信じています。
角田さん 佐藤さんが言ってくれた、天然ゴムの「本質理解」に取り組みながら、より優れた「使いこなし」、そしてさらなる高機能化を進めること。そして藤野さんが進めている、より強く、高い付加価値を持つ天然ゴムづくり。これらに取り組んでいくことで、ブリヂストンの商品はこれからも進化し続けていきます。
私は約30年間、ゴムの研究開発に携わってきましたが、先輩たちから受け継いだものや、自分たちが積み上げてきたものを、次世代を担う仲間たちへつないでいきたいですね。
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