防災に必要なのは“意識”と“知識”

栃木工場火災が起きてから22年が経ちました。この火災を経験していない従業員が増えるなか、火災によって失うものの大きさや忘れてはいけない教訓を次の世代に伝えるために、当時の状況を知る那須工場の鈴木さんにお話を伺いました。
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(株)ブリヂストン
那須工場 製造部 製造第1課長

鈴木 哲郎さん

火災発生当時、栃木工場 生産管理課におけるIndustrial Engineer(IE)として、乗用車用タイヤ、トラック・バス用タイヤの成型工程における生産管理を担当。火災後、防災体制づくりに奔走したのち、再建後は精練係へ異動。2025年7月より現職。

燃え尽きた精練棟 想像を超える光景

火災発生当時、私はいつも通り工場の事務所で業務をしていたのですが、精練工程の担当者が「火が消えない!」と叫びながら、息を切らして走ってきました。慌てて事務所の外に出て、精練棟が見える場所まで向かったのですが、立ち上る煙よりも、建屋から走って出てくる仲間たちの様子を見て、「ただ事ではない」と感じました。

私自身、動揺もしていましたが、精練工程の稼働が止まることを確信し、生産管理課の担当として真っ先に頭に浮かんだのは「生産を止めないために何をすべきか」ということ。工場の電源が落ち、パソコンも使えませんでしたが、電灯の消えた薄暗い事務所でホワイトボードを囲み、これからどのようにゴムをやりくりするか、同じ課の仲間たちと議論を始めようとしました。ただ、すぐに火災対応を優先するよう指示が出たため、分担して消火活動をしたり、在庫としてあったタイヤを安全な場所に移動させたりと、各自ができることを行いました。工場周辺の状況確認を任された私は、社外の方が敷地内に立ち入っていないか、危険な箇所はないかなど、ひたすら走って見回りを続けました。

鎮火後、精練棟に立ち入ると、燃え尽きて黒くなった大量のゴムや、溶け出した油まみれのゴムがあちこちに散乱していました。「ゴムはこんなにも燃えるものなのか…」と、信じられない気持ちでしたね。

その後、工場の稼働が止まっている間は、他の課のメンバーと一緒に、防災体制の見直しを担当しました。火災発生前、火災報知器は誤作動の多さから音が鳴らないように設定されており、今では考えられない状態でした。これを正すべく、火災報知器が鳴ったら、現場にいる従業員全員が、近くの消火器を持って速やかに発火現場に向かうというルールができました。消火器を20メートル間隔で設置することを徹底するようになったのもこの火災の後からです。心苦しかったのは、精練工程で働いていた仲間たちに、他の工場への期限付き転勤の指示が出された時です。私も人員計画の作成を担当していましたが、家庭の事情などで転勤できず、会社を辞めざるを得ない仲間も多くおり、本当に辛かったですね。

鈴木さん

仲間たちに伝え続ける義務

火災から約1ヵ月後、精練棟を再建する発表があり、仲間たちとまた一緒に仕事ができることがうれしかったです。再建が急ピッチで進むなか、火災発生前は現場の決められた置き場以外に置かれていた部材や薬品などを、決められた倉庫内で適切な量を管理する標準作りを進めました。この標準を守っていくことは、今でも変わらない義務であり、当時、消防署の方とも交わした約束でもあります。

そして火災翌年の夏、新しい精練棟が立ち上がり、私も精練係へと異動になりましたが、製造現場で働くうちに改めて、ルールを守ろうとする”意識”だけでは不十分だと感じるようになりました。「なぜこのルールがあるのか」、タイヤの部材・薬品に関する“知識”と紐づけてルールを理解し、それを実践しなければ、決して正しい防災活動にはつながりません。

私はあの日、あの場にいた1人として、ゴムは火がついたら簡単には消せない可燃物であること、製造現場では多くの危険物を取り扱っていること、そして火災が起きれば全てが失われることを、これからも仲間たちに伝えていく義務があります。防災への“意識”を高め、正しい“知識”を身に着けるよう、職場の仲間たちに伝え続けていきます。二度とあのような火災を起こさないために。

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コメント(3)

あの日を忘れない!さん

あの日を絶対に忘れません!
記事で仰る通り「意識と知識」を基本に日ごろから事務所でも現場でも自宅でも「発揮」します!
ご安全に!

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たんとうさん

様々かたの視点からみた当時の様子は学びになります。

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ふーはさん

ルールを守る事が目的になってしまうと本末転倒ですものね、ルールがある本質を理解する大切さを感じ取れました有難うございます。

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