自然にも配慮した新たな素材 「生分解性ゴム」
ブリヂストンの主力製品であるタイヤ。このタイヤにはさまざまな素材が使われており、それぞれが欠かせない役割を担っていますが、自然にも配慮した新しい素材の開発も進めています。
タイヤとしての性能を高めるだけではなく、使用後の自然界への影響も緩和していく。それがブリヂストンが目指すタイヤづくりです。その実現に向け、大学や研究機関との共創を通じて、自然界で分解される「生分解性ゴム」の開発に挑んでいます。前例のないテーマに取り組む皆さんにお話を伺いました。
タイヤとしての性能を高めるだけではなく、使用後の自然界への影響も緩和していく。それがブリヂストンが目指すタイヤづくりです。その実現に向け、大学や研究機関との共創を通じて、自然界で分解される「生分解性ゴム」の開発に挑んでいます。前例のないテーマに取り組む皆さんにお話を伺いました。
(株)ブリヂストン
材料技術開発部 上席研究主幹
浜谷 悟司さん
(株)ブリヂストン
素材科学基盤研究部 新素材創成研究課 研究主幹
タルディフ オリビエさん
「生分解性」とは?
物質が微生物の働きによって分解され、最終的に水や二酸化炭素などに変わる性質のことです。生分解性を有する素材を用いることができれば、自然界への影響の緩和につながります。
物質が微生物の働きによって分解され、最終的に水や二酸化炭素などに変わる性質のことです。生分解性を有する素材を用いることができれば、自然界への影響の緩和につながります。
リーディングカンパニーとして、タイヤ・路面摩耗粉じんの課題に向き合う
浜谷さん タイヤは走る度に少しずつ摩耗します。一般的な乗用車やトラックの場合、使用期間を通じてタイヤ1本当たり数kg程度が失われます。摩耗して生じたタイヤ摩耗粉と道路表面の舗装材が混ざりあった粉じん(TRWP:Tire and Road Wear Particles)は、その場にとどまるものもあれば、雨水や河川などを通じて自然界へ移動するものもありますが、非常に細かな粒子であるため、一度海に流出すると回収は困難です。
オリビエさん タイヤそのものは使用後に回収し、再利用できる一方、走行中に少しずつ発生し、海まで到達した粉じんを後から集めることは極めて難しく、この問題にどう向き合うかは、自然界への影響の緩和を目指す上で避けては通れない課題です。解決が難しいこの課題に、リーディングカンパニーとして向き合うべく、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトに参画しました。
オリビエさん タイヤそのものは使用後に回収し、再利用できる一方、走行中に少しずつ発生し、海まで到達した粉じんを後から集めることは極めて難しく、この問題にどう向き合うかは、自然界への影響の緩和を目指す上で避けては通れない課題です。解決が難しいこの課題に、リーディングカンパニーとして向き合うべく、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトに参画しました。
「強さ」と「分解されやすさ」という、 矛盾への挑戦
浜谷さん これまで私たちは、タイヤを長く、安全に使えるものにするため、ゴムの耐久性を高め続けてきました。そのゴムを自然界で分解されるものにすることは、これまでと反対の方向へ進む、ある意味で矛盾した挑戦です。
オリビエさん 使用中に簡単に分解してしまうようなゴムは、製品に使うことはできません。走行中の耐久性は落とさず、粉じんとなって自然界へ出た後に、微生物が分解できる状態へ変わっていく。この相反する2つの性質をどう両立させるかがとても難しいポイントです。
オリビエさん 使用中に簡単に分解してしまうようなゴムは、製品に使うことはできません。走行中の耐久性は落とさず、粉じんとなって自然界へ出た後に、微生物が分解できる状態へ変わっていく。この相反する2つの性質をどう両立させるかがとても難しいポイントです。
海で「分解のスイッチ」が入るゴムへ
浜谷さん そもそもタイヤ用のゴムが分解されにくいのは、長い分子の紐が複雑に絡み合い、さらに加硫反応による硫黄架橋で固く結び付けられているためです。紐同士がもつれ合い、その結び目を接着剤で留めたような状態では、微生物や酵素がうまく働き掛けることはできません。分解させるには、この長い分子の紐を短く切ることと、架橋を外すことの両方が必要でした。そこで私たちは、ゴムの分子そのものに手を加える2つのアプローチを考えました。
オリビエさん 1つは、長い分子の紐の途中に、微生物や酵素が反応しやすい部分を組み込むことです。粉じんとなって自然界へ出た後、その部分を起点に分子の紐が短く切れるようにします。もう1つは、分子同士を固定する架橋の一部を、自然界の環境では外れやすい結合へ置き換えることです。この2つがそろって初めて、丈夫だったゴムが、分解されやすい状態へと変わるのです。
浜谷さん 私たちはこれを、「分解のスイッチ」が入る設計と呼んでいます。粉じんとなったものの一部は海に流れますが、海の水分や塩分、そこに生息する微生物などの影響を受けながら、時間を掛けて分解が進んでいくゴムを目指しました。
「世界が変わる」 1マイクロメートルの変化
オリビエさん 数多くの試行を重ねましたが、海から取り出したゴムサンプルの外見や重さに、大きな変化は表れませんでした。目に見える結果が出ない期間は長かったですね。
浜谷さん オリビエさんの言うとおり、結果はなかなか出ませんでしたが、ある日の夜、社内の分析チームから1枚の画像が届きます。ゴムサンプルの表面に、約1マイクロメートルの無数のトンネル状の跡があり、明らかに生分解が進んだ痕跡だったんです。その画像を見た私はとても興奮して、すぐに「これは世界初の大きな発見です!」と返信しました。分子設計から評価の方法まで、地道に検討を重ねてきた研究が、1つの成果として形になった瞬間でした。
浜谷さん オリビエさんの言うとおり、結果はなかなか出ませんでしたが、ある日の夜、社内の分析チームから1枚の画像が届きます。ゴムサンプルの表面に、約1マイクロメートルの無数のトンネル状の跡があり、明らかに生分解が進んだ痕跡だったんです。その画像を見た私はとても興奮して、すぐに「これは世界初の大きな発見です!」と返信しました。分子設計から評価の方法まで、地道に検討を重ねてきた研究が、1つの成果として形になった瞬間でした。
持続可能な未来につなげる
オリビエさん ブリヂストンには、ポリマーの合成からゴム材料の試作、分析までを自社で一貫して行える研究環境があります。だからこそ、目の前で起きた現象を次の素材づくりへつなげることができます。この試行錯誤をスピーディーに繰り返すことで、技術力を鍛えてきた会社です。タイヤ材料に関する幅広い知見、社内外のパートナーとの連携を大切にする文化、そして研究に携わる担当者が現場へ足を運ぶDNAがブリヂストンにはあります。これらの要素が、生分解性ゴムという新しい研究領域を前に進める原動力にもなっています。
浜谷さん 現段階の生分解性ゴムは、まだ製品であるタイヤへ採用できる段階にはありません。生分解性を高めつつ、耐摩耗性能をどこまで保てるか。製造コストを抑え、大量に安定して生産できるか。実用化に向けて、クリアすべき課題は数多く残っています。また、広大な海には、まだ名前すら付いていない微生物も数多く存在し、自然界には私たちが解明できていないことがたくさんあります。これらと1つずつ向き合いながら、持続可能な未来につながる新しい技術の実現を目指し、挑戦を続けていきます。
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